いかがなものか? 


陽あたり問題

私が土地探しでお世話になった不動産屋さんの営業担当者M氏は語ります。

「うちももっと良い家が欲しいんです、今は陽あたりが悪くて.....。家内に欲しいものがあれば言ってみろ、というと必ず「陽あたり」と答えるんです。」 

世間には陽あたりを重視する人はかなりの数にのぼります。あとからオプションで買えるものではないのでなおさらです。私は昔オープンカーに乗っていました。当時そのメーカーのキャッチコピーは、

「青空標準装備」

名言だと思いました..... 同時に世の中「モノは言いよう」という意味を学びました。

陽あたり人気は賃貸物件や土地家屋の消費状況を見れば一目瞭然。なかには狂信的ともいうべき陽あたり信者すら存在します。陽あたりファン、陽あたりマニア、陽あたりフェチ、陽あたりフリーク、陽あたりビリーバー、陽あたりサポーター、陽あたりフーリガン............ しかし私は陽あたりも広い庭もバルコニーもサンルームも高い吹き抜けもさほど欲しいと思ったことがありません。なぜならそれらにはデメリットもあるからです。南側道路とか風水にも基本的にはこだわりません(というよりゼイタクいいません)。私にとって陽あたりは住まいにおいて真っ先に譲歩できる条件なのです(というより、ほかに優先したいことが有る)。陽あたりの悪さは土地については世間でデメリットと思われている分だけ価格が安いことすらあります..... 。陽あたりの良い住まいにも住みましたが壁紙や棚板や窓枠やカーテン、カーペット等の傷みが圧倒的に早いです。かわりに冬場の暖房費は軽減されます。当然ながら夏は猛暑。同時に窓が広いと防音効果が低減。陽あたりの良い建物ならば風通しも良くしておくべきでしょう。窓が大きければ冷暖房の効果が弱まり、プライバシーも確保せねばならず、窓の位置にも気をつけねばなりません。ちなみに私の趣味の仲間のH氏の父上は高齢ですが、その方いわく

冬になると寒くて死ぬので「避寒」のために沖縄へ移り住む

のだそうです、自然ですねぇ。とてもわかりやすい生き方だと思います。

もし多少の陽あたりが譲歩できるなら予算的なことを考えると北側道路や陽あたりの悪い物件を選び、価格交渉してみるというのも一案です。売れ残っている物件でそういったものもよくあります。私の場合は賃貸も持ち家も選ぶときは条件をだいぶ譲歩しました。むしろ最低限の希望を3つぐらい確保できればヨシとします。お金もないのにゼイタクを言ってはイケマセン。駅からの距離と買物便利と適度な広さがあれば充分。あとはなんとかなるだろうと.......(私は持ち家ですらいつでも売却して住みかえるつもりでいます)。利便性や静かな環境など、譲れる条件と死守する条件を自分のなかで整理してみてはいかがでしょう。私の職場の先輩のT氏が家を建てるときに吹き抜けと書斎と大きなリビングとアトリエなどを夢見て図面を描いていましたが、最後は奥様の近所で土地が決まり、高圧線の真下になりました。そして自分の書斎は2帖程度へ縮小、アトリエは無くなり吹き抜けも夢と消えました。でも広いリビングだけは子供たちのために死守したようです。奥さんとお子さんの為に建てた家のように私には見えまして .... その後T氏はその家の天井から落ちて肋骨を折って......ちょっと気の毒。

 

 

【もうひとつの理由:耐震性】

昭和56年に耐震基準が見なおされたことはよく知られていますが、その後平成12年には阪神淡路大震災の影響でさらなる強度の基準の見直しが行われました。例えば建物の壁を補強する「筋交い」やそれを固定する方法など。昭和56年の基準(昭和57年以降に建築された建物)では筋交いの固定方法は釘のみでもよろしいということになっていました。また、筋交いを建物の周壁の偏った配置を行っても問題とはみなされませんでした。ところが平成12年(西暦2000年)の見直しでは筋交いの固定は金物(金属板)を用いることが義務づけられ筋交いの配置も建物周囲にバランス良く配置せねばならないことになりました。さて、おかしなことに現在(平成17年:2007年)では国土交通省の示す耐震診断のマニュアルは昭和57年のものが依然として使われており、同時に平成12年のマニュアルも用いられています。つまり新旧2つの耐震基準が存在して都合の良いほうで診断されている現状です。古い基準のマニュアルは診断に手間や費用がかからないからだといいます、とんでもないことです。名古屋大学の研究によると南側に大きな窓をとって筋交いがアンバランスになった建物は倒壊しやすいとのこと(北側に大きな窓をたくさん設ける人はいないでしょう)。

また、阪神淡路大震災で倒壊した築年数の浅い建物を調査したところハウスメーカーが最近でも古い基準で建築していたり、南側に大きな窓(掃き出し窓)を設置した例が多かったと指摘されています。つまり南側採光窓を広くするために筋交いを入れられず注文主の言うがままにハウスメーカーが施工しているわけです。私の認識としては、

 

時に施主自身がトラブルの原因をつくる

 

ということです。採光だけでなく水回りや階段の位置や向き、風通し、収納とその重量配分、車庫位置と構造、ドアの開く方向、その他、お客さんの要望をなんでもかんでも受け入れるハウスメーカーや建築士もいかがなものかと思ってしまいます。 中古で家やマンションを買って改造するときにも同じことが言えますね。希望をとりいれた結果、建物の強度が下がることもあれば、冷暖房の効きが悪くなることもあると理解しておくべきでしょう。

 

我が家(大成建設のパルコン)では掃き出し窓が一つもありません。全て腰高窓です。勝手口も排除。採光窓はすべて縦長の狭いものです。さきに掲げた「防災」「防犯」「防音」のコンセプトを中心にして陽あたりは優先しなかったためです。そうです、わざわざお願いして窓を少なく, 小さくしてもらったのです。私の作業部屋は大型のLEDで一定の照度と色温度を保ちます。そのため大きな窓は必要なかったのですが建築基準法により部屋の床面積の1/7相当の面積の窓を付けねばならず、やむおえず腰高窓を付けることになりました(納戸で申請することも不可能ではないでしょうけど設計者が不可としました)。私にとって作業部屋は照明器具で充分な明るさが24時間随時確保できれば窓は小さくてもよく、そのかわりに冷暖房が効いて恒温恒湿であるほうがありがたいのです、仕事の都合上。

さらに、ベランダやバルコニーすらも我が家では必須ではありません(防犯上)。最低限の窓だけ付いた直方体を理想と考えたぐらいです。いつかモノリスみたいな家を建ててやろうと思っています。私は孤島ならともかく、屋上やベランダやバルコニーに出て人目につくエリアでくつろぐ気分にはなれないのです(今までそういう習慣がなかったせいかもしれません)。もうひとつの理由は我が家では花粉症のために屋外に洗濯物を干さないのです。ちょっと高価ですが洗濯から乾燥まで全自動の洗濯機を使います。ちなみにお陽様に洗濯物をあてなかったことによる不具合はまったく今までありません。洗濯物を陽にあてなくても死ぬことはありません。衣類の虫食いはカツオブシ虫など外から飛来して洗濯物に付着し、それを取り込むことで発生するといわれています(NHK「ためしてガッテン」より)。 我が家では衣類の虫喰いはまったくありません。

陽あたり問題、優先度はときに建物の強度の次ということでガッテンして頂けましたでしょうか?  ガッテン! ガッテン! ガッテン!

  

【追加名言】2006.01.18

上記のように私にとって陽あたりは大きな問題じゃないよ、と仕事仲間の主婦のYさんに話したところ、以下のように一笑されました。

 

「人間じゃないわ!」

   

 

 

【参考】

パルコンには多くの基本的な制限があります。例えば1階に大きな窓を設けるとその真上を壁にしてはいけないとか、1階部分の区切りの壁を垂直に2階と3階へ延長せねばならないとか、間取りを数センチ単位では決められずパルコン板(工場生産プレキャストのコンクリート板)のサイズに基づいて部屋数や寸法がほぼ決まってしまう、などといった点です。実際に我が家の場合も間取り/ゾーニングを決める打ち合わせではキッチンからリビングへの見通しが悪いのでパルコン板に小さな穴を開けて窓を作ろうとしたのですが設計が不可とのことでした(大成建設ではめったに設計は打ち合わせには出てこないのが普通らしい)。理由は強度確保とのこと。また、収納を少し狭くして居室を広げようとしても90cm/45cmが基本となっていて微妙な壁の移動ができなかったことなどが挙げられます。PCパネルのモジュールが決まっているがゆえの制限、これはパルコンの短所といえます(工夫すればもっと小さなモジュールも可能らしい)。とあるハウスメーカーの営業は「ウチはパルコンと違って数mm単位で自由にレイアウトできます。」と得意気に語っていたのを思い出します。それなら現場打ちのコンクリート住宅にしたら?といわれると........ それもねぇ?
いくつかの制限があっても、2011年の東日本大震災の津波に耐えた個人住宅「パルコン」。火事にも耐える家。そこに私が譲れない理由があります。

 

その後

我が家のパルコンが完成。住んでみたら ... フツーに陽当たりイイですよ。陽当たりの悪い家を造ろうとしたわけではなく、強度を最優先したのですが、結果的には燐宅との距離や環境が悪くないのでフツーに陽当たりはヨロシイのです。快適です。

※ このページの記事は建設当時の2005年に書いたものです。以後、部分的に修正しました。

 

 

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